雪白の月
act 9
内藤さんに事後報告の連絡を入れると、岩瀬の姿を見るなり ―
「よう岩瀬。無事だったか?」
「はい。ご心配をお掛けしました。」
「あぁ。別に心配してなかったけどな。」
ケロッと内藤は告げる。けれどもソレが内藤なりの心遣いなのだ。
その内容に岩瀬は少し情けない顔をして
「そうなんですか?チョットは心配しても…」
「バカいうな。お前さんが石川をほっといてグータラ寝れる訳がないだろう。」
サラッと言った内藤の言葉に石川と岩瀬は目を見張る…
「…内藤さん。」
「じゃあな。こっちも忙しいんだ。またな。」 と言うだけ言って通信を切る。
岩瀬はそっと石川の様子を見ると 石川は怒った様な、困った様な…複雑な表情をしていた。
そして、やはり岩瀬を見ずに 「もう一度、外周を点検してくる。」 そう言って管理室を出て行く。
その後を付いて行く岩瀬の姿を見て…三舟は苦笑する。
隊内の雰囲気が変わっていた。
先ほどまでの張り詰めた、切れかけの糸の様な緊張感溢れる物でなく。
余計な力が抜けた、心地よい緊張感に変わっている…。
三舟は石川と岩瀬が出て行ったドアを見て呟いた。
「やっといつも通り…か。」 と。
実際はいつも通りではないのだが…。
外警管理室へ着くまで石川と岩瀬は一言も言葉を交わすことなく…視線すらも外されたままだった。
「どうなっている?」
「隊長。岩瀬! 大丈夫か?」
西脇が眉を顰めて岩瀬を見る。 その視線に苦笑で答え、岩瀬は―
「えぇ、大丈夫ですよ。ご迷惑をお掛けしました。」
「…ホントにな。」
「西脇さん…。内藤さんと同じような反応ですよ…」
「あのオヤジと一緒にするな。」
西脇はそう言って石川と岩瀬をチラッと見る。
そして…
「隊長。岩瀬をチョット借りても?」
「…あぁ…」
「岩瀬。ちょっと来い。」
見向きもしない石川の態度に西脇は顔を顰めつつ、岩瀬を部屋の外へと連れ出した。
「…岩瀬…何があった?」
「それが…俺にもよく分からないんですが…」
「本当に解ってないのか?」
そう質問する西脇の表情は硬く…その目は『間違ったらたたき出す』と物語っている。
岩瀬も西脇と同じく硬い表情で…先ほどのDrからの忠告を思い出す―
『岩瀬。石川さんは今、自分を責めているんだ。そして、岩瀬のことも自分の責任だと思っている。だからあんな態度なんだ…。石川さんに岩瀬の強さを教えてあげてくれ。でないと…』
そう言ったDrは、悲しそうな顔だった…。
そして、今、西脇にも心配されている…。
岩瀬は意を決したように西脇を見据え。
「…多分ですが…俺が気を失ったことに関係があると…」
その答えを聞き、西脇は張り詰めた気配を緩める。そして、溜め息を一つついて
「…ギリギリ合格点だな。じゃあ、任せたぞ。」
西脇はそれだけ確認するとサッサと部屋の中へ入っていった…
「西脇さん…」 岩瀬は部屋へと消える西脇の背中に感謝する。
そして、自分も監視室へと入っていった。
>>act 10